横浜地方裁判所 平成6年(ワ)3770号 判決 1996年4月22日
原告
三上シゲ子
ほか二名
被告
鈴木恒雄
主文
一 被告は原告三上シゲコに対し、三一一四万六六一九円、原告三上裕子及び同三上陽子に対し、それぞれ一五五七万三三〇九円及びこれらに対する平成四年五月二九日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを三分し、その二を被告の、その余を原告らの各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告三上シゲコに対し、九八八五万二七五五円及びこれに対する平成四年五月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告三上裕子及び同三上陽子に対し、それぞれ四九四二万六三七七円及びこれに対する平成四年五月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 交通事故の発生
(1) 日時 平成四年五月二九日午後一〇時四〇分頃
(2) 場所 横浜市栄区上郷町七二〇番地の一九(県道三一号線)先路上
(3) 態様 訴外三上誠(以下、誠という)が、前記日時、場所において道路を歩行中、金沢方面から戸塚方面に向かつて、被告が保有し運転する大型貨物自動車(相模一一き六三六五、以下、加害車両という)が、誠に衝突し同人を跳ねとばし、多発性臓器損傷により即死するに至つた。
2 相続関係
原告三上シゲコ(以下、原告シゲコという)は、誠の妻、原告三上裕子(以下、原告裕子という)及び同三上陽子(以下、原告陽子という)は誠の子であるが、誠の死亡により同人の権利義務を相続により承継取得した(相続分は原告シゲ子が二分の一、原告裕子、同陽子は各四分の一)。
3 被告の責任
被告は、前方不注視ないし減速義務違反の過失により本件事故を発生させたものであるから民法七〇九条に基づき、また、被告は、加害車両を自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条に基づき、後記損害を賠償する責任がある。
4 損害の発生
(1) 葬儀費 二五〇万〇七九三円
(2) 雑費 三万一二〇〇円
<1> 死体検案書料 二万七六〇〇円
<2> 事故証明書代 三六〇〇円
(3) 逸失利益 一億七一四五万九一一七円
(四九歳から六七歳まで)
年収 一九五九万四二一二円
生活費控除 三割
ライプニツツ係数 一一・六九〇
(計算式)
一九五九万二一二×〇・七×一一・六九〇=一億六〇三三万九四三七(円)
(六八歳から七八歳まで)
年収 二四〇万円
生活費控除 四割
ライプニツツ係数 七・七二二
(計算式)
二四〇万×〇・六×七・七二二=一一一一万六八〇(円)
(4) 慰謝料 合計三六〇〇万円
誠の慰謝料 二〇〇〇万円
原告シゲコ 八〇〇万円
原告裕子、同陽子 各四〇〇万円
(5) 小計 二億〇九九九万一一一〇円
(6) 損害の填補 三〇〇〇万三六〇〇円
(7) 弁護士費用 一七〇〇万円
(8) 本訴に要した費用 七一万八〇〇〇円
(9) 損害合計 一億九七七〇万五五一〇円
5 よつて、被告に対し、原告シゲコは九八八五万二七五五円、原告裕子及び同陽子はそれぞれ四九四二万六三七七円及びこれに対する事故の日である平成四年五月二九日から完済まで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因第1項の(1)、(2)は認める。(3)のうち、誠が道路を歩行中に対向の加害車両に跳ねられ即死したことは認める。
2 同第2項は不知。
3 同第3項は否認する。
4 同第4項中、(1)、(2)、(8)は不知、同項の(6)は認め、その余はいずれも争う。
三 被告の主張及び抗弁
1 本件事故現場は、前記県道三一号線上の紅葉橋の上である。被告は、加害車両の進行方向の左側に誠が外側線と右紅葉橋との間の幅員一メートルの部分を対向して歩行しているのを認めたが、普通に歩行している様子であり、その時点では危険を感じなかった。ところが、誠と加害車両とが約三ないし四メートルに接近したとき、突然誠が車道上に倒れ込んできた。被告は咄嗟にブレーキをかけると同時に右にハンドルをきって衝突を避けようとしたが、避けきれず誠は加害車両の後部のトレーラー部分に衝突した。
2 自賠法三条による免責
被告には、運行上の注意義務違反はなく、加害車両に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。
3 仮に、被告に何らかの過失があるとしても、被告には結果の回はほぼ不可能であるのに対し、被害者の誠が結果を回避することは極めて容易であつたと認められるから、誠の過失がはるかに大きく、損害を算定するに際し考慮されるべきである。
四 被告の主張及び抗弁に対する認否
1 本件事故の衝突地点は、以下に述べるとおり、甲第四号証の一の見取図記載の衝突地点よりも金沢方面寄りである。すなわち、誠は加害車両によつて一旦同車両のフロントガラス付近まで跳ね上げられているのが大塚によつて目撃されていること、加害車両のトレーラー左側面下部の払拭痕、左後輪タイヤ部分に付着していた肉片及び血痕が誠のものであるとすれば、誠は一旦跳ね上げられて落下した後にトレーラー左側面に巻き込まれてその下部を擦り、左後輪で轢過されたと見るべきである。右見取図における布ずり痕及び毛髪付近並びに飛散した血痕が、加害車両の左後輪で轢過された際の痕跡であるとすれば、誠と加害車両との衝突地点は、右見取図記載の衝突地点よりも金沢方面寄りである。仮に、加害車両の進行速度が時速五〇キロメートル、誠が約二メートルの高さまで跳ね上げられてから落下するまでの時間が一秒であるとすれば、同見取図記載の衝突地点よりも一三・八九メートルほど金沢方向に寄つた地点が実際の衝突地点となる。
2 抗弁2事実は否認する。
加害車両は事故当時、本件事故現場付近の道路状況に照らすと、時速五〇キロメートルを超える速度で走行しており、衝突の態様は前記1のとおりであり、被告は、本件衝突直前、酔つぱらって足元がふらついているように見えた誠を早期に発見できなかつたことから、被告には前方不注視ないし減速義務違反の過失がある。
3 抗弁3事実は否認する。
本件現場付近は、前記紅葉橋を迂回する歩道の橋が設けられていたものの、それより戸塚方向寄りの歩道は、幅員も狭く歩道上で歩行者がすれ違うことはおろか、歩行者が直進歩行することすら困難であつた。したがつて紅葉橋付近の歩行者は車道上の外側線付近を進行することを余儀なくされており、仮に誠が紅葉橋の前後において右外側線付近を歩行していたとしても、道路事情からやむを得ないと言わざるを得ない。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因第1項中、交通事故の発生日時、場所、事故の態様中、誠が道路を歩行中に対向の加害車両に跳ねられて即死したことは、当事者間に争いがない。
二 事故の態様について
1 成立に争いのない甲第四号証の一ないし四、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第九号証の一ないし一二、同乙第一、第二号証の各一、二、証人大塚正美の証言、原告シゲコ及び被告本人尋問の各結果(ただし、証人大塚正美の証言中、後記採用しない部分を除く)によると、次の事実が認められる。
(1) 本件現場は、東方金沢方向から西方戸塚方向に通ずる県道三一号線の路上であり、中央にセンターラインがもうけられた片側一車線で、車道幅員は約七メートルありその両側は一段高く幅員約一メートルの歩道がある。
(2) 本件現場付近には通称紅葉橋が架つているが、その道路部分は、車道の幅員が約七・五メートルあり、戸塚方面に向かつて左側に約一メートルの外側線が引かれ、さらに、約三・五メートルの幅員で歩道部分が迂回している(実際に歩行できる部分は約一・八メートル)。
(3) 現場付近の道路は平坦でほぼ直線であり、前方の見通しは良く、路面はアスフアルト舗装されている。道路端には水銀灯が約三〇メートル間隔で設置されており、前方左側歩道上の歩行者は約六〇メートルの地点において確認できた。
(4) 現場の道路規制は、最高速度が毎時四〇キロメートル、終日駐車禁止、追越しのため右側部分はみ出し通行禁止と指定され、道路標識が設置されていた。本件事故発生時頃、交通量が多いため相互通行を実施して実況見分が行われた。実況見分が行われた五〇分の間に歩道を通行した歩行者は約二〇名いた。
(5) 被告は、加害車両を運転して県道三一号線を金沢方面から戸塚方面に向けて時速約五〇キロメートルで走行して前記紅葉橋に差しかかつた際、誠が約二二メートル前方の紅葉橋上の車道にあたる外側線上を歩いているのに気付いた。加害車両と誠との距離が三ないし四メートルに接近したとき、誠が車道上によろけたのを見て、被告は危険を感じてハンドルを右に切つてブレーキをかけて衝突を避けようとしたが、加害車両は誠に衝突した。右衝突地点は、外側線から車道内に約〇・九メートル入ったところであつた。
(6) 加害車両の損傷箇所は、被牽引車であるトレーラーの左側面下部前先端から二〇センチメートルの位置に六二センチメートル×一二センチメートルの払拭痕が認められた他、左後輪タイヤ部分に三〇センチメートル×一二センチメートル大の肉片及び血痕が付着していた。損傷箇所から判断すると、誠は加害車両の被牽引車の左側後部に衝突したものと推認することができる。
(7) 加害車両は、時速約五〇キロメートルで走行していたので、誠から一〇〇・六メートルないし一四七・七メートルの地点で被告は誠を視認することが可能であつた。
(8) 被告は誠に初めて気付いた地点の約二八メートル手前でラジオ放送に夢中になり、誠を発見したのは、ラジオ放送に夢中になつた地点から更に約二八メートル進行した地点で、誠から約二二メートル離れた地点であつた。
被告は誠に初めて気付いた地点は、加害車両の速度が時速約五〇キロメートルであるから、時間にして約一・六秒の地点であつた。
(9) 本件現場付近の道路を誠の後方を車で走行していた訴外大塚正美(以下、大塚という)の目からは、前記紅葉橋の手前で戸塚寄りの地点(目撃した地点から約五〇ないし一〇〇メートル)を人が酒に酔つて足元がふらついているように見えたが、歩道上を歩いていたのか、車道上を歩いていたのかは不明であつた。誠の妻は事故後、警察官から誠は本件事故当時、飲酒していたことを聞かされた。
2 証人大塚の証言中、前記1の認定に反する部分は後記3の理由により採用しない。
3 原告らは、誠は加害車両によつて一旦同車両のフロントガラス付近まで跳ね上げられて落下した後にトレーラー左側面に巻き込まれてその下部を擦り、左後輪で轢過されたと主張する。証人大塚は右主張に符合する供述をするが、右供述は次の理由により採用しない。すなわち、大塚は平成四年六月一六日に実施された実況見分に立ち会つて指示説明をしたが、その際においても、現在においても、本件事故直前、被害者である誠をどの地点で発見したのかについてあやふやな供述にとどまり、加害車両の前の部分で誠をはねあげたと供述するが、右実況見分の際の指示説明にはそのような記載は見当たらないこと、前記1の(6)で認定したように、誠は加害車両の被牽引車の左側後部に衝突したものと推認することができることから、右供述は採用しない。そうすると、前記1の(6)で認定したように、損傷箇所から判断すると、誠は加害車両の被牽引車の左側後部に衝突したものと推認できるので、加害車両のトレーラー左側面下部の払拭痕、左後輪タイヤ部分に付着していた肉片及び血痕は、原告らが主張するように、誠が一旦跳ね上げられて落下した後にトレーラー左側面に巻き込まれてその下部を擦り、左後輪で轢過されたと見るべきではなく、加害車両の被牽引車の左側後部に衝突したことによるものであるとみるべきである。
三 成立に争いのない甲第三号証及び原告シゲコ本人尋問の結果によると、請求原因第3項(相続関係)の事実が認められる。
四 被告の責任の有無及び過失割合について
1 前記二で認定した本件事故の態様にもとづき検討する。
前記二の1の(5)ないし(9)の事実によると、被告は加害車両を時速約五〇キロメートルで走行していたのであるから、少なくも誠から約一〇〇・六メートルの地点で視認することが可能であつたにもかかわらず、誠から約二二メートルの地点に接近するまで誠の存在に気付かなかつたのは、被告がラジオ放送に夢中になつていたためであると考えられる。
前記二の1の(9)の事実によると、加害車両と対向して走行し本件事故を目撃した大塚は、約五〇ないし一〇〇メートル先の地点で酒に酔つて足元がふらついている誠の存在に気付いていたのであるから、仮に、被告が前方注視義務を怠らなかつたならば、もつと早期に誠を発見し、歩行者が車道上をふらついているのを認識することができ、そうだとすると、被告は誠の動静を注視しながら減速するとか、対向車の有無を確認して誠との間隔をとつて誠との衝突を回避することができたというべきである。被告が早期に誠を発見しておれば、加害車両の車長を考慮してもハンドルを右に切つて回避することは十分可能であつたと考えられる。
しかるに、被告は、前方を注視を怠り、誠の発見が遅れそのため適切な回避措置をとることなく、漫然と時速約五〇キロメートルで運転走行したものであるから、被告には前方不注視義務を怠つた過失がある。したがつて、自賠法三条による免責の抗弁は理由がない。
2 他方、被害者である誠にも次のような過失が認められる。すなわち、前記二の1の(2)、(5)で認定したように、本件事故現場付近には歩行者用に幅員一・八メートルの歩道が設けられているのに、右歩道を歩行しないで、歩行してはならない車道である外側線を酒気帯びの状態で歩行していたこと、加害車両と誠の衝突地点が車道上であることから誠が外側線から車道内によろけながら進入したものと推認されることから、誠にも本件事故の発生につき過失がある。その過失割合は、被告が五五パーセント、誠が四五パーセントとするのが相当である。
五 そこで、原告らの損害について検討する。
1 葬儀費 一二〇万円
弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七号証の一、二によると、仏壇、仏具代として五五万五五八二円を支出したことが認められるが、誠の年齢、家族構成、社会的地位等を考慮すると、葬儀費用としては仏壇、仏具費用を含めて一二〇万円を認めるのが相当である。
2 雑費
雑費として三万一二〇〇円の損害を被つたことを認めるに足りる証拠はないので、右請求は認められない。
3 逸失利益
(1) 逸失利益算定の基礎年収について
本件の場合、平成四年一月から事故日までの収入を基礎として一年分を算出するべきか、平成三年一月から一二月までを基礎として算出するべきか、問題があるが、次の理由により前者にしたがつて算出することにする。すなわち、平成三年の収入に関する、課税証明、源泉徴収票及び確定申告書における収入額はすべて異なつているため、右書類のなかでは確実な資料であると考えられる確定申告書を基準とするにしても、右申告書には、株式会社アドバンス及び神建運輸株式会社からの収入が記載されていないこと、同申告書には受付印がなく、裏面が記載されていないこと、還付金があるにもかかわらずその振込先が記載されていない等、提出された確定申告書と同一の内容が記載されているか否か疑問があるところから、右確定申告書を基準とすることができない。
そこで、平成四年の収入について検討するに、同年分の確定申告書及び源泉徴収票を基準に、以下のように修正したうえ、基礎収入を算定することとする。
すなわち、平成四年分の確定申告書及び源泉徴収票を基準にして年収を算出するにあたつて、平成三年分の源泉徴収票の記載内容をもとに平成四年分の収入を推測すると、誠は平成四年中に、株式会社藤商から六〇〇万円(ただし源泉徴収票によると、二五〇万円が支給されているが、これは同社の平成三年分の源泉徴収票によると六〇〇万円が支給されているところから、五か月分が支給されたものと推認され、したがつて、平成四年分の収入は六〇〇万円であると推認される)、藤原運輸株式会社から七九〇万四八三二円(ただし、源泉徴収票によると、平成四年一月から六月まで支給されているので、一年分は三九五万二四一六円の二倍である七九〇万四八三二円と推認される)、神建運輸株式会社から一二〇万円(ただし、源泉徴収票によると六〇万円が支給されているが、右の六〇万円は藤原運輸株式会社と同様六か月分が支給されたものと推認されるから、平成四年分の収入は一二〇万円であると推認される)、株式会社アドバンスから二四〇万円(ただし、源泉徴収票によると一〇〇万円が支給されているが、同社の平成三年分の源泉徴収票によると二四〇万円が支給されているところから、五か月分が支給されたものと推認され、したがつて、平成四年分の収入は二四〇万円であると推認される)の合計一七五〇万四八三二円が支給されたことが認められる。
(2) 次に、誠の右年収を前提とする就労可能年数について、原告らは、誠の各会社における将来性及び安定性をもとに六七年まで可能であると主張し、これに符合する原告シゲコの供述が存するが、原告シゲコは誠の生前の収入について正確に把握しているとは認め難く、まして誠の将来性について適正な認識を有しているか否か疑問であることから、右供述のみをもつて誠の将来性を判断することはできない。
原告シゲコ本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一六号証及び同結果によると、誠は、藤原運輸株式会社の東京支店長(のちに参事となる)、同社の関連会社である株式会社藤商、神建運輸株式会社、株式会社アドバンスの代表取締役を勤めていたが、誠がオーナーであるのは株式会社アドバンスのみであつて、他は委任関係にすぎない会社役員であることが認められ、右事実によれば、右各社からの給与を合計した誠の収入は、大部分が不安定な地位にもとづく役員報酬であるから、右報酬が長期間にわたつて継続する蓋然性は高いとはいえない。しかし、誠がオーナーである株式会社アドバンスについては、死亡するまで同様の地位にあるものと認められる。
他に、誠の将来性についての的確な証拠及び誠の前記報酬が長期間継続する蓋然性を認めるに足りる証拠はない。
したがつて、誠の右年収を維持し得る就労可能年数は四九年から六〇年までの一二年間(その間の生活費控除割合は三割とする。ライプニツツ係数は八・八六三二)六一年から六七年までの七年間(その間の生活費控除割合は四割とする。ライプニツツ係数は五・七八六三)は賃金センサス平成五年の高卒全年齢平均賃金(五一七万五四〇〇円)を基準とし、六八年から七八年(四九歳の平均余命)までの一一年間(その間の生活費控除割合は五割とする。ライプニツツ係数八・三〇六四)は、誠が株式会社アドバンスから得ていた年収(二四〇万円)を基準として逸失利益を算定するのが相当である。
(計算式)
<1>四九年から六〇年までの逸失利益
一七五〇万四八三二×〇・七×八・八六三二=一億〇八六〇万四一七八(円)(円未満切り捨て、以下同様)
<2>六一年から六七年までの逸失利益
五一七万五四〇〇×〇・六×五・七八六三=一七九六万七八五〇(円)
<3>六八年から七八年までの一一年間の逸失利益
二四〇万×〇・五×八・三〇六四=九九六万七六八〇(円)
(3) 逸失利益の合計
一億〇八六〇万四一七八+一七九六万七八五〇+九九六万七六八〇=一億三六五三万九七〇八(円)
4 慰謝料
原告らの精神的苦痛に対する慰謝料としては、誠が一家の支柱であることから、誠が一五〇〇万円、原告三上シゲコが五〇〇万円、原告陽子、同裕子が各二〇〇万円の合計二四〇〇万円とするのが相当である。
六 損害賠償請求権の相続
成立に争いのない甲第三号証及び原告シゲコ本人尋問の結果によると、原告シゲコは誠の妻、原告裕子及び同陽子は、誠の子であるが、誠の死亡により同人の権利義務を相続により承継取得した(相続分は原告シゲコが二分の一、原告裕子、同陽子は各四分の一)ことが認められる。
七 過失相殺
前項の損害合計一億六〇五三万九七〇八円につき前記四で判示したとおり四五パーセントの過失相殺をすると、原告らの損害額は八八二九万六八三九円となる。
八 損害の填補
原告らは、自賠責保険から三〇〇〇万三六〇〇円の給付を受けたことは当事者間に争いがない。これを前項の過失相殺後の金額から控除すると、原告らの損害残額は五八二九万三二三九円となる。
九 弁護士費用
本件の認容額、事案の内容その他諸般の事情を考慮すると、弁護士費用として、原告らにつき合計四〇〇万円が相当である。
一〇 本訴に要した費用
訴訟費用に関するかぎりは、訴訟費用の負担を命ずる裁判と、訴訟費用額確定決定にもとづいて償還を求めるべきであり、また求めることができるのであるから、損害賠償として別訴訟で請求することはできない。したがつて、訴訟費用である貼用印紙及び予納郵券を損害賠償として請求することはできない。
一一 以上のとおり、原告らの損害は、合計六二二九万三二三九円となるので、原告シゲコの損害額は、三一一四万六六一九円、原告陽子及び同裕子は各一五五七万三三〇九円である。
一二 結論
以上のとおりであるから、被告に対し、原告シゲコは三一一四万六六一九円、原告陽子及び同裕子は各一五五七万三三〇九円及びこれに対する事故の日である平成四年五月二九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 日野忠和)